LE GRAND PANブノワ・ゴーティエと龍泉刃物

素材との対話

店のオープン当初から続けてきた、『ル・グラン・パン』の名物料理は、大きな塊肉の鉄板焼だ。とりわけ、鉄板で焼いた1kg以上あるリムーザン産牛の骨付きの背肉は、香ばしさに加えて、赤身はマグロの刺身のような上質な香りと味わいとしまり具合で、愛好家が絶えない。豚、仔牛は牛肉とともに年中のサービス、冬になるとブルターニュ産のホタテ貝、オマール・ブルーが黒板に書き付けられる。鉄板焼は、見た目はダイナミックだが、味わいは繊細。前菜も、アスパラガス、アーティチョーク、トマトやモリーユ茸、セップ茸、マテ貝や牡蠣、鰻の稚魚など、旬の食材がしっかりと生かされた洗練された料理ばかりで、鮮やかに食卓を彩ってくれる。「素材をリスペクトして料理をするなら、よい包丁は欠かせません」とオーナー・シェフのブノワ・ゴーティエは言う。昨年10月に食会(DOMA)が開催したBtoBサロンで、出展していた龍泉刃物の丹厳龍マイカルタの牛刀とペティナイフを購入したばかり。33層のダマスカス模様のある上部に槌目模様をかけた贅沢。何人もの職人が工程に携わり、1丁1丁ていねいに仕事をしたからこそ現れる、職人芸による美しさがある。 「この道に入って19年。はじめは、技術も所作も学ぶことばかりでしたが、長年の経験を経た分だけ、料理人としての技は少しは進化していますし、この仕事をより深めることができるようになったと思います」。丹厳龍は、料理人として成熟し、切れ味よく、さらに美しい包丁を持つに相応しくなったと思える自分へのご褒美でもあった。

開店10年を迎えた、新たな出発

「特に日本の包丁を探していたわけではありませんでしたが、この包丁を握ったときに、手にしっかりと温かく馴染むのを感じました。また、ここちよい柄の重みと包丁の刃のバランスが非常に優れているのです」。柄はリネンのマイカルタだ。高い強度を持ち、防水性にも優れて、ちょうど良い重量感が仕事に安心感を与えてくれる。アーティチョークと包丁を握る手をリズムよく動かしながら、「アーティチョークを剥くときに、この包丁を手放せなくなりました」とゴーティエは嬉しそうに語る。 その『ル・グラン・パン』は、2017年5月に奇しくもオープン10年を迎えた。10周年記念には、店の目の前の通りを閉鎖し、楽隊も呼んで、感謝祭を催した。訪れた客は300人にものぼる。恩師や同僚、常連客、親族などでごった返した午後。ファンファーレは、ゴーティエにとっての、節目の時を飾っていた。 Le Grand Pan 20 rue Rosenwald 75015 Paris http://www.legrandpan.fr