祇園さ々木の八寸「立春大吉」

暦の上では春を告げる「立春」である。

立春は春が始まる節目の日。

一年が始まるのは正月、しかし生活が始まるのは立春とかつては別々に考えられていたようだ。

だからこそ「立春」の前日を節分として、それまで一年間の厄を払って新しい一年を迎えることとした。

では「立春大吉」という文字について。この四文字、すべて左右対称となっている。

ということは表からの裏からも同じように読むことができる。

玄関に立春大吉の御札を貼る意味がそこにある。

鬼が玄関から入り、振り向くと同じように「立春大吉」と読めるため、 まだ家に入っていないと思い出てゆく。つまり鬼が入ってこない・・

一年間災害から逃れることができるということなのである。

その「立春大吉」を主題に佐々木は2月の八寸を考えた。

「なんといってもおめでたいことですので、長皿ではなく丸皿に盛り込みました。

節分ですから豆とイワシは必須です。じつは、巻き寿司とイワシを同じ長さにしておあります。

食べやすさも考えています」と説明してくれた。

確かに巻き寿司とイワシは同じ長さであった。

昨今、恵方巻きというモノが一般的になってきた。

一口で食べるにも最適なサイズといえるのだ。

合鴨はしっかり味を含ませる。

だしの味わいを含んだ合鴨の味わいは、ついもう少し食べたいと思わせる誘惑である。

イワシは丸干しであり、福塩豆、鯛の子の水晶巻き、卵焼き、人参と大根は紅白でとなる。

おめでたい献立なのだが、佐々木の八寸はたまらなく食欲を刺激するのだ。

「やっぱり、食事というのは、楽しくもっともっと食べたいと思ってもらえないと負けなんですね。 そうでないと、これだけ料理屋さんがいっぱいある中で、 リピーターになってもらうことは難しいです」とも言いきった。

料理は社会と密接に結びつき、とくに日本料理は季節と関連してこそ意味がある。

その意味をきちんと理解して作るからこそ、意義も生まれ、文化の継承にも繋がってゆく。

佐々木は常に料理を作るだけでなく、そのミッションを考えているのだ。

「祗園ささ木」