今を生きる、フランスのクラシック料理

『今を生きるフランスのクラシック料理」のはじめに


DOMAは、時代がめまぐるしく変わる今、敢えてクラシック料理のレシピを巡るストーリーを追い、紹介したいと思います。

 

おそらくそれらは、聞きかじったことのある料理、ストーリーではないかと思います。パリの『リッツ・ホテル』で引き継がれている、エスコフィエがホテル・サヴォイで作り上げた、ネリー・メルバのためのデザート『ピーチ・メルバ』。『トゥール・ダルジャン』の、フランス・ガストロノミーのエレガンスを集結した血のソースの鴨料理。あるいはリヨン『メール・ブラジエ』の、名女性料理人が美食家を満足させた『肥鶏のドゥミ・ドゥイユ』。ヴァランス『ラ・メゾン・ピック』の、パリから向かう国道7号を賑わせた『ブレス鶏のヴェッシー包み』。

 

こうしたクラシック料理には、時代や場所といった背景、それを産み落とした人々の技術や情熱など、食文化のすべての結晶が詰まっている。さらに、食べ手も含めて、料理に対峙する人々の生きざまの証明ではないかと思います。そして、それは、時も出来事も積み重ねられた人々の魂が眠る場所で、多くの人々の記憶とともに育まれ、今もなお様々な形で生きています。だからこそ、儚い一瞬を永遠に変える力があって、時代を超えても、多くの人々や料理人にインスピレーションを与え続けてくれている。レシピの行間から豊かさを語りかけてくれる、無形の財産ではないかと思います。過去から現在にわたって引き継がれ、人々の記憶とともに生き、蘇る、クラシック料理の無尽蔵なストーリーと今を追い求めていきたいと思います。

挿絵:"Les rêves d’un gourmand", frontispice de l’Almanach des Gourmands, tome 6 (1808). Gravure de Grimod de La Raynière./グリモ・ド・ラ・レニエール『美食年鑑』6巻口絵『美食家の夢』