祇園さ々木の「味覚の饗宴」

長月の八寸 「味覚の饗宴」

 

 

長月が始まる。

諸説あるが、夜がだんだん長くなる「長夜月」から転じたという説が有効である。

京都の街が、すこしずつ色づいてゆく。

頬をなでる風が、涼しさを運んでくる。

「食材が、楽しみになってくる季節です」と佐々木は笑みをうかべながら話す。

とはいえ、まだまだ現代の長月は暑さが残る。

そのような時代感覚を取り入れるのも佐々木の世界観ともいえる。

旬の食材だけを並べるだけが佐々木の八寸ではないのだ。

いわば去りゆく夏の匂いをかすかに感じさせながらも、来るべき秋の気配をしっかり提案するのである。

 

 

盛り込まれる前の食材が白木のまな板に並ぶだけで、一気に周りが明るくなる。食欲をそそるのだ

 

「アワビはそろそろ終わる頃です。でもやっぱり魅力的な食材なんです」とあわび好きの佐々木は目を輝かせながらつぶやいた。

 

あわびはしっかり味を含ませる。食感は弾力があり、歯を入れるとじんわりと出汁の味わいが広がってくる。

ずいきは白和えで柚子釜に盛る。

レンコンは黄身餡を詰め込み、彩り豊かにする。

 

 

秋の味覚の大きな位置を占める栗も登場である。甘みというより栗が持つ味わいをふんわり引き出したのだ。

きぬかつぎも入る。

寄せ卵は三つ葉など香りも重要な要素となる。

茗荷は寿司仕立で仕上げる。

 

 

バチコが入ることで、味に変化とインパクトが現れる。

 

これらの料理をいかなる皿に盛り付けるのか、佐々木は「あえて落ち着いた皿にしました。長月はいろいろな食材がたっぷりあるので、それが主役です。皿はうっすら秋を感じてもらえればいいなと思っています」と。

そこにすすきをあしらうことで、秋の彩りがやってくる。愛でることも、料理を味わう大切な項目である。

食べ進むに連れ、秋の感じが深まってゆくのだ。

 

 

 

 

祇園さ々木 京都府京都市東山区大和大路東入小松町566-27 ☎︎075-551-5000