銀座線下町物語  プロローグ

 

銀座線へようこそ

5年前の7月、住み慣れた渋谷を離れて、雷門に小さなアパートを見つけ居を移すことができた。下町に住むことが長年の夢だったのだ。そして気づいたのは、1927年に浅草・上野間で開通した銀座線沿線に広がる界隈を観察するのが好きだということ。

日常的なことや驚き、好奇心にかられることもある。それが例えば、見てはいけないものだったり、人々、食べ物、流行に目を奪われることだったり、物語もあり事件も転がっている。読者の興味も意識してだが、こうした風景をもっと深く掘り下げたいという欲望にかられて、自分に問いかけ、写真を撮り、そして書き下ろす。

1920年代に、演歌師の草別け、添田唖蝉坊はこうした寄せ集めのことを「絶え間なく流れる、人間市場*」と名づけている。私はこの底知れない大都市にたまたま生まれたが、もしも自分がこの町で育ったら、どのように物事が見えただろうとか、こんな風に語っていることも、どのようになっていただろうなどと考える。

時には物語は脱線し、電車も地図にはない駅へ停まることもあるだろう。とにかく今は東へ、川の方へと電車を走らせよう。

*1920年代に添田唖蝉坊が発表した仕事の英語訳が「Asakusa and its ‘human market’ and ‘endless current」と認められる。「浅草底流記」からか。

 

オリジナルブログ: ginzaline

DOMAが紹介するマーク・ロビンソンのエッセイ。1929年、浅草・上野間に開通した銀座線。界隈に住むマーク・ロビンソンが、日常で出会う下町の風景を切り取ります。

マーク・ロビンソン:料理執筆家、編集者、ジャーナリスト(FT, The Times UK, Australian Financial Review Magazine, NHK radioなど) 。東京生まれ。シドニー育ち。1988年より東京を拠点に活動する。