祇園さ々木、皐月の八寸

「男の節句」

「端午の節句は男の節句。
「男の節句は、おにぎりだと思うのです。ちまきは、そういった意味でもはずせないです」
と佐々木は、ちまき寿司をまきながら話し
「また、菖蒲とよもぎを軒先に飾ることで邪気払いをしたのです」と付け加えてくれた。

 

基調は緑。
初夏に向かい、植物がもっとも青々と茂るころなのだ。

緑の八寸ともいえる。健康や成長を願う八寸でもある。
青竹の上に、料理を並べる。
海ます、稚鮎、うすいえんどう豆、しらすあえ、たいらぎ貝の味噌漬け、
一寸豆が美しく並ぶ。

ちまき、今回は鯛を使ったが、ときにはあなごやエビなどを使い、
バリエーションを増やすこともある。
海ますは45度のピーナッツオイルで2時間半じっくりコンフィで火入れをしてから
40秒燻製をかける。
よってふっと鼻先にスモーキーな香りが漂い、身はしっとりという仕上がりになるのだ。
素材が持つ力を最大限に生かしながら、佐々木ならではの時代のスパイスをまぶすことで
個性が生まれてくる。

 

稚鮎もこれから育つ姿を象徴するように、やや淡い焼色の付け方、
焼き加減など真夏の鮎とはことなる火入れを行う。
素材一つひとつの持ち味をしっかり把握しながら、それを活かしきる調理を試みる。

伝統的な八寸も、佐々木は「もちろん素材を選び、伝統を尊ぶのですが、
そこに僕の思いをプラスすることが、ホントに大切だと思っています」
とコンセプトをきっぱり言いきった。

 

この季節から少しずつ器にガラスが加わってくるのだ。
それもその思いの現れでもある。
ガラスがもつ透明感は涼を呼ぶ効果をもたらす。
料理は視覚から入ってくる情報も重要。

 

目に鮮やかでフレッシュ感のある八寸だが、
じつは一つひとつの料理に込められた思いの深さに気づくのであった。

 

さて、どの料理から手を伸ばせばいいのだろうか、迷いが生ずる八寸でもある。